アフリカの真珠便り(1)
7月7日、私はウガンダ東部のイガンガ県とトロロ県に2件の草の根・人間の安全保障無償資金協力案件の引渡し式に出席するために出張しました。
朝8時過ぎ、首都カンパラの朝の渋滞の中をぬって(ウガンダの車の85%はトヨタ、ニッサン、ミツビシ、ホンダなどの日本車)一路東に向かって車で出発。カンパラは周辺地域も含めれば人口約120万人の大都市です。
カンパラには7つの丘があり、この地域を統治していたブガンダ王国国王の狩り場となっていたところで現地の言葉でカンパラは「インパラの住む丘」という意味です。30分ほどすると路の両側にナマンベ工業団地が姿を現します。
ここはウガンダ政府の国家投資庁が海外からの投資を促進するために造成している大規模な工業団地で電気や水が優先的に進出企業に割り当てられています。コカコーラ、インド系企業、中国系企業などが工場などを建設してすでに操業を開始したり、あるいは、その準備に取りかかったりしています。
ウガンダはこの5年間の平均成長率が8%と順調な経済発展を遂げつつあり、海外からの投資を梃子に民間主導型の持続的な経済発展を通じた貧困削減を目指しています。この工業団地はその政策の一環として政府が力を入れているもので海外からの投資の一大拠点を目指しています。
ナマンベから約1時間、ケニアのモンバサにいたる幹線道路の両側に広大なお茶畑が姿を現す。多くの労働者がお茶の朝摘みをしています。この辺一体はインド系のウガンダ人が経営するお茶のプランテーションで、広大な敷地内に労働者の住宅、学校、診療所などが点在しています。お茶はコーヒー、綿花、胡麻、ビクトリア湖でとれるナイルパーチと呼ばれる白身の大きな魚、切り花などとともにウガンダの主要輸出品です。
やがて緑豊かな「マビラ保護森林」と呼ばれる森を抜けるとビクトリア湖が見えてきます。ビクトリア湖はタンザニア、ケニア、ウガンダにまたがる琵琶湖の約100倍、九州の約2倍の面積を有する世界第2位の淡水湖です。この湖を源流とするナイル川(白ナイル)はコンゴ(民)との国境の湖アルバート湖に流れ込みそこからスーダンの首都ハルツームでエチオピアのタナ湖から流れ出す青ナイルと合流してエジプトを経て地中海に注ぐ世界最長6,695KMの大河の長い旅の始まりの場所です。ビクトリア湖の端に位置するジンジャはカンパラから80KM、古来から政治、経済、戦略上の要衝の地として重きをなしてきた町でインド系ウガンダ人の多く住む町として、また、ナイル川の源流の地として繁栄をしてきた町です。
ジンジャから東に更に20KM、イガンガに到着しました。そこから引き渡し式の行われるマクトウ郡へ向かう。草木の茂る緑の中を赤茶けた細い道路がくねくねと続いている。運転手同士が話をしている。「目的地までここからどのくらい?」「ここからまっすぐにすぐのところだ」そうかと思っていると会場に到着したのは約1時間後。改めてアフリカの「すぐ」は1時間もかかるのかと再認識させられました。
さて、最初の引き渡し式は、草の根・人間の安全保障無償資金協力「農業生産向上のための牛耕促進計画」です。被供与団体は多目的トレーニング・コミュニテイー・エンパワーメント協会で、同協会は青年の識字率向上、職業訓練、農作物の市場化、持続可能な農業の推進及び訓練を目的として1986年にイガンガ県に設立されたNGOです。近代農業技術を導入して農家の生産量を上げ、収入を増やすため東部地域の53の農民グループに対して各々のグループのニーズに応じて農耕用家畜(牡牛)を各グループ2等筒計106頭、牛耕用の鋤、カートを各グループ1台ずつ供与するもので、供与品が最大限に有効活用されるように全農民グループを対象に牛の飼育、緊急時の牛の治療・手当及び牛耕訓練の研修を実施すルプログラムが含まれていて供与額は43,968ドルです。会場には地域の行政責任者、多くの農民のグループが参集していて口々に各々のグループの生計向上に向けて牡牛、鋤、カートを有効利用したいと意気込んでいました。私からは、日本では地域の活性化と生計向上に地域住民自らが推進者となって取り組む一村一品運動があることを紹介しつつウガンダにおいてもこの理念を取り入れたウガンダ版の一村一品運動が工業省と農業省のイニシアチブのもとに開始されていることを紹介しながら、現在ウガンダ政府が取り組んでいる「万人の繁栄政策」(就業者の85%を占める農業国ウガンダで、地域の担い手である地域住民が付加価値をつけた農産物を生産することによって地域の活性化と生計向上につなげようとする試み)にも即した本件プロジェクトの試みが成功することを願っていると述べました。
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午後2時すぎ、引き渡し式を終えて第二の目的地であるケニア国境近くの町トロロに向けて移動です。対向車線をケニアから物資を満載した大型トラックがひっきりなしに通り過ぎていきます。ウガンダ、ルワンダ、南部スーダン、東部コンゴ(民)の物流の85%がケニアのモンバサ港に依存している現状を反映している光景です。およそ2時間ほどでごつごつした岩山が姿を現します。路の両側には広大な水田が広がっています。このあたりは水稲チルダ・ライスの生産地でウガンダのほとんどの米は陸稲ですが、ここだけは中国人が最初に住み着いたところで水稲の栽培が盛んなところです。場所によって田植えをしたばかりの緑の水田が、また場所によっては稲穂を重そうに垂れ下げた黄色の田んぼが見受けられます。年に2度収穫が出来、肥沃な土壌と相まって肥料は使用していない由です。このチルダ米はカンパラを始めウガンダ全土で販売されています。やがてトロロに到着です。
トロロはセメント、リン、金の生産地として知られているところで首都カンパラから211KM、ケニアの国境から9KMに位置する人口4.2万人の国境の都市です。夕方6時からトロロの市の中心部のロータリーにおいて「トロロ市における街灯設置計画」の引き渡し式に出席しました。トロロ県第一の街であるトロロ市内には1970年代に設置された200本の街灯がありましたが、老朽化のため半数以上が倒壊し、夜間の治安が悪化していました。今回の草の根・人間の安全保障無償資金協力で設置される100本の街灯は主として目抜き通りの中心部に設置されます。市内の中心部のほとんどに夜間の照明が行き届いたことで夜間に商業活動を行っている女性を始め市民の夜間の安全が向上することが期待されています。更に、トラックなどの交通量が夜間も多いケニア国境野町ブシアへ抜ける路にも街灯が設置されたことで交通安全面での改善がみられることが期待させています。被供与団体はトロロ市で、供与額は86,138ドルです。会場にはすでにトロロ県知事やトロロ市長を始め多くの市民の皆さんが集まっています。日が暮れかかった午後7時過ぎ私とトロロ市長が街灯を点灯しますと市民の皆さんが喜びの声を上げ口々に感謝の言葉をかけてくれました。点灯されたばかりの街灯に沿って住民の皆さんが笑顔で歩き始めました、どんなに待ち望んでいたのかが実感として伝わってきました。ウガンダの電化率は12%ですが地方は4%にすぎません。明かりは我々が思っている以上に地方の人々にとってはかけがえのないものです。街灯がトロロ市民の皆さんにとって安全を提供するだけではなく、心の灯火となってほしいと思いつつ引き渡し式を無事終えることが出来ました。
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2010年7月20日
加藤 圭一