アフリカの真珠便り(2)
9月15日から17日まで、私は、2件の草の根・人間の安全保障無償資金協力案件の引き渡し式に出席するためウガンダ西部のカバロレ県フォート・ポータル市及びブシェニ県に出張しました。この地域は、ウガンダでも有数の自然環境に恵まれたところでもありますので、今回のアフリカの真珠便りは、主として、ウガンダ西部の自然の豊かさ、美しさを中心にウガンダの観光資源の紹介も兼ねたものにさせていただきます。
最初の目的地フォート・ポータル市は、人口4万5千人、1882年に誕生したトロ王国(注:ウガンダには16世紀頃以降からブガンダ、ブニョロ、ブソガ、アンコレ及びトロという5つの王国がありましたが、1966年当時のオボテ首相によって廃止され、1993年ムセべニ大統領によって復活しました。現行の憲法上、国王は歴史的・文化的指導者と位置づけられており政治的な地位は与えられていません。現在のトロ国王はルキラバサイジャ オヨ ニンバ カバンバ イグル ルキデイ四世です)の中心都市でリビアの支援で完成した王宮が町を見下ろす高台に立っています。町の名前の由来は、英国の保護領(1894年から1962年まで)当時、隣国のアンコレ王国との間で土地を巡る争いが絶えなかったところ、駐留していた英国軍人のポータル少佐の提案で砦が築かれたことによるもので、以来、人々はポータル少佐の名にちなんでポータル砦(フォート・ポータル)と呼ぶようになったとのことです。
首都カンパラからは317キロの距離ですが、カンパラから郊外の町ミテイヤナまでの69キロが工事中のため6時間半ほどの時間を要します。
フォート・ポータルは、ウガンダの平均標高が1,200メートルですが1,525メートルあり、朝夕は肌寒くセーターが必要です。ここはウガンダの有数の観光地の入り口にもなっています。アフリカで三番目に高いルエンゾリ山は「月の山」とも呼ばれ、4,500メートルを超える峰々がコンゴ民主共和国北キブ州との国境沿いに連なっています。マルガリータ峰の山頂には氷河がありますが近年の地球温暖化の影響で85%が溶けてしまっているといわれています。登山には往復ガイド付きで1週間を要しますが、かなりの登山技術を要する山といわれています。欧米諸国からは大勢の登山者が来る山として有名で世界遺産にも登録されており、ルエンゾリ山塊国立公園にも指定されています。広大な山塊の裾野は竹林、ぼろ菊、ロベリア、ヒースと呼ばれるツツジ科の常緑低木などの緑に覆われています。この町は観光地であるだけに宿泊施設やレストランなども比較的よく整備されていて多くの外国人を町の中で見かけます。フォートポータル近郊一帯は紅茶の産地としても有名で広大なお茶畑はインド系の企業グループが経営しムクワノ紅茶として海外に輸出もされています。
さて、17日の朝は、草の根・人間の安全保障無償資金協力案件ゴミ処理改善計画の引き渡し式です。町の中心部の施設でフォートポータル副市長などの関係者が待ち受けています。この案件はフォートポータル市役所にゴミ輸送用トラクター、収集設備車載機、収集設備各一台ずつを供与することにより、ゴミ収集・処理の効率を上げて町の衛生を向上させようとするもので供与額は63,100ドルです。同市ではこれまでに一日平均89トンのゴミを排出していましたが、37トン程度しか収集輸送できずゴミ処理は喫緊の課題となっていました。今回の協力により町のゴミが適切に収集・処理され観光地にふさわしい町にしようと市では「クリーン・フォート・ポータル」を積極的に進め市民に対する啓蒙活動を強化しています。
広大な茶畑 引渡し式(フォート・ポータル)
引き渡し式を終えて次の目的地ブシェニィに向かいます。フォート・ポータルからは165キロほどの距離ですが、途中、かって銅の生産地として有名なキレンベ鉱山(現在でも少量の銅を生産)やこの地域の中核都市カセセの町を通過、しばらくすると、赤道の標識が見えてきます。やがて道の左側にジョージ湖、右側にエドワード湖がそして2つの湖をつなぐ全長36キロの自然のカジンガ運河が道を横切っています。この周辺一帯はクイーン・エリザベス国立公園になっています。広大なサバンナの公園にはゾウ、ライオン、カバなどの動物、600種以上といわれている野鳥などが生息しウガンダ観光の拠点の一つとなっているところです。エドワード湖の向こうはもうコンゴ民主共和国です。山、湖、サバンナ、動物、野鳥といった自然の恵みに満ち、宿泊施設も整備されているこの公園には年間を通じて多数の人々が訪れます。
ここからブシェニィへはカスヤハやカリンズ゙といった森林保護地帯を通ります。まるで緑のカーテンを思わせる山道、途中の見晴台からみるクイーン・エリザベス国立公園のどこまでも続く景観は、その奥にそびえている雲に覆われたルエンゾリ山、わずかに姿を見せている裾野と相まってアフリカの自然・大地の広大さを目に焼き付けてくれます。地平線の彼方にゆっくり沈んでいく夕日はアフリカの自然の美しさを実感させてくれます。
17日朝は、ブシェニィの3つの小学校に教室棟(3教室)を1棟ずつ建設するものでブシェ二ィ県庁政府が被供与団体となっており、供与額は85,755ドルとなっています。ブシェニィの県庁で県の教育関係者と落ち合いでこぼこ道を約一時間かかって会場であるニャムタンバ小学校に到着しました。この小学校を含む今回の教室棟建設の対象となっている3つの小学校はいずれも山間部にあり、土壁、かやぶき屋根、土床といった劣悪な教育環境にある合計1,083人の児童の学習環境が改善されることが期待されています。首席行政責任者、教育関係者、児童、親が多数出席する中で引き渡し式が行われました。特に印象的だったのは児童とともに多数集まっていた児童の両親の真剣なまなざしと感謝の言葉でした。日本と同じようにウガンダも教育に対する関心は非常に高く特に両親は教育に熱心です。この小学校の児童は毎朝夕1時間ぐらいをかけて山道を自宅から学校に通ってきます。足元を土埃にまみれさせながら大きな目をいっぱいに見開いて新しい教室で勉強できることを喜んでくれました。この児童の中から将来のウガンダを背負う指導者が輩出されることを期待し会場をあとにしました。
ブシェ二ィ県は人口が73万人、マトケと呼ばれる食用バナナ、紅茶、絹の生産地として栄えている町です。ここで生産される紅茶はィガラ紅茶といわれフォートポータルの紅茶と異なりウガンダ人が共同生産組合を作って生産・販売を行っています。バナナは至るところにたわわに実っています。西部地域一帯のバナナは大消費地である首都カンパラに毎日トラックを満載にして運ばれていきます。ブシェニィには桑の木がたくさんあります。JICAの専門家や青年海外協力隊員が桑の木の栽培、絹の生産について地域の農家の人々に支援を行っています。昨年は2,000トンの絹糸をエジプト、エチオピア、ナミビアに輸出したそうで更なる生産増に向けて農家の人々が貴重な収入源となる桑の木の植林に励んでいます。自然の恵みをいっぱいに受けたこの町は農業立国ウガンダの象徴的な存在となっています。
引渡し式に出席した児童(ブシェニィ) マトケを運ぶトラック
2010年10月14日
加藤 圭一